「歯を抜く」これは皆様にとって非常にショッキングな出来事と思います。動物であれば「歯を抜く」=「食べられない」=「死」を意味(1)します。幸い人間は歯を抜いた後も何とか食事ができるよう、様々な方法を身につけてきました。
しかし、いくら素晴らしい人工物で歯を補っても、それは神様に与えられた自分の歯には敵うものではありません。噛んだときの感覚、見た目、長持ち、修復後に起こりえるトラブル・・・ 入れ歯、ブリッジ、インプラントなどの人工物から比べると、その差は歴然としています。
インプラントを例に取ると、歯根膜という歯と骨をつなぐクッションが無いことによる、衝撃からの被せものの破損、また、人工物と歯肉・骨との境目からの易感染など、様々なことが考えられます。
それに対し、一度、深いむし歯により歯の形が崩壊し、歯髄まで細菌が感染してしまった歯でも、適切に治療を行うことにより、もう一度よみがえらせることができるかもしれません。
日本で従来より行われてきた一般的な深いむし歯の治療:歯内療法は、その場の症状を消すために、歯に大きな穴を開け、神経をある程度取り除き、痛みを感じなくしてからふたをする治療で、細菌に対する配慮があまりなされておらず、いわゆる「対症療法:症状に対する治療」と言えるでしょう。
それに対し、欧米の歯内療法専門医が行う治療は、細菌感染を排除するための様々な配慮を行った上で治療する「原因除去療法:原因を絶ち再発を防止する」と言えます。
さらに、深いむし歯により感染した歯髄腔や根管は、図の通り非常に複雑な形をしており、そこに器具を入れて治療するわけですが、どこの歯も直接見ながら治療できないので、いわば手探りの治療を行っていました。
しかしながらアメリカでは、歯内療法専門医が治療を行う場合、手術用顕微鏡の使用を義務づけ、歯の中を大きく拡大し、しっかり照明を当てながら、直接観察・治療できる環境でしか、治療を認めないようになりました。その結果、治療の成功率は日本のそれとは大きく異なり、おおよそ90%の成功率を誇るといわれております。
当院にても導入している歯科用顕微鏡やその他の精密根管治療用器具は、日本での普及率が2%くらいと、決して多いものではなく、皆様にも一般的ではないように思います。しかしながら、世界基準での歯内療法を受けるにはある程度の設備が整い、施術する歯科医師がトレーニングされた診療室で治療をうけることが、ご自分の歯を守る近道だと考えます。
深いむし歯に罹ってしまった場合、以前に根の治療を行った歯に症状がある場合には、皆様がその歯で一生お食事をしていくために、手術用顕微鏡を用いて、細菌感染に対して適切な配慮が出来る環境下で治療を行う、トレーニングされた歯科医師からの施術をお勧めいたします。